『うちのお父さんは仕事中に熊を見たよ』と、こどもが友達に話す。 お父さんの職業って何だと思いますか?
道具と朝礼
ここは東京なの?と驚いてしまう自然がにしがわにはあります。そんな にしがわならではの風景でおしごとをされている若手木こり集団・株式会社 木林士(キリンジ)さんにお話を伺いに行ってきました。
今日は檜原村での間伐作業です。まずは,おしごと現場に上がる前に持ち物を見せていただきました。防振手袋や鉄芯が入っている防護ブーツ。内部の特殊繊維によりチェンソーの刃の動きを止める防護ズボン。ノコ屑や細かい石や土から顔を保護するフェイスガードとエンジン音からの保護の為のイヤマフが一体となっているヘルメット。装備品は林業先進国スウェーデンのハスクバーナ社製の物を多く使用して、林内での視認性を高めるために色は目立つオレンジです。
そして蜂に刺されてアナフィラキシーショックを起こした時に打ち、症状を抑えて病院に到着するまでの時間を稼ぐ『エピペン』と呼ばれる注射器。万が一の際は自分で打たなければならいそう。きこりの持ち物は、それだけで特集ページが組めるぐらい興味深い物でした。しかし装備品・道具一つとっても安全第一・命に直結しているための物で、山しごとの重みを感じました。
- 朝礼風景
一通り準備が整ったら朝礼です。現場の境界確認や危険予知確認等を行います。水出社長の的確な指示に皆さんの表情も更に引き締まります。私もヘルメットを被り、さていざ現場へ。事前に『登山ではないですよ』と言われましたが、『ここが現場への入口です』と言われ一瞬たじろいでしまいました。えっ?何故って?それはものすごい傾斜の獣道だからです。正直ここまでとは想像していませんでした。最初からインパクト大の山しごと見学の始まりです。
ちなみに現場初日は、チェンソーやらオイルなどの大荷物を運んで山に上がるそうです。 そして夏の場合は5〜6リットル以上の水がリュックに入り、冬はアウターでリュックはいっぱい。私ならば到着するまでに、ばててしまいそうな話です。
やっとこさ現場に到着しましたが、山の斜面に立って移動する感覚に慣れないおっかなびっくりな私。そんなぎこちない動きの私を見て、水出社長が『東京の山しごとは急斜面が多いのですよ』と話してくれました。この急斜面で軽々と移動をして、作業をされている皆さんに尊敬のまなざし。そんな中、皆さんはチェンソーの刃を専用工具で研ぐ「目立て」作業を始めました。終わったら無線を身につけて、いよいよ作業開始です。
技術力と想像力
- 斜面での作業は移動だけでも緊張します
山しごとでは上下作業は厳禁で、誰が何処で作業をするかの配置はとても重要です。ベテランの井上さんがチェンソーで木に印を付けて新人の小西さんがそれを目印にその木と向き合います。静かな森にチェンソーの音が一斉に響き始めました。
実は間伐に入る前に"大刈り"と呼ばれる作業があります。混雑した鬱蒼とした暗い山の中では安全面や作業面に支障がでるので、邪魔になる低木や蔓を予め刈るのです。この作業だけで数日。それが終わったら、本題の"間伐"なのです。陽が充分に差し込む健康な山は、そんな労力の賜物なんだと改めて知り、素直にありがたいと感じました。
『山しごとは、技術職でありイマジネーションが必要なんです』と水出社長。『山の傾斜や木の傾きなどを考慮し、次の工程に無駄のない動きで取り組めるように伐倒方向を計算する。それは安全にも繋がることで、経験と技術力が必要とされます。そして先人がどんな想いで木を植えどんな山にしたかったのか、それを考え、何十年先の人々にとっても良い山は何だろうと未来に思いを馳せながら、間引きの選木を行います。僕達の仕事の結果は直ぐにはわからないのです。長い時を経て、誰かが良い山作りをしてくれたなって言ってくれたらなと思っています。とても気が長い仕事なんですよ』。私は、永久の時の中で過去と未来を繋ぐ仕事に対する気持ちにとても感動しました。
作業が一段落したらお昼休憩です。新人の小西さんと斉藤さんは、食べないと体力がもたないため、白米多めのお弁当です。お弁当の後は昼寝。静な山の中での至福のひと時ですね。
山しごとの醍醐味
- しごと終わりに食べたいご飯は? 左から水出社長『嫁の餃子とビール』 井上さん『嫁の唐揚げ』 斉藤さん『肉と三ツ矢サイダー』 小西さん 『BBQ』
皆さんに山しごとについて聞いてみました。
小西さんは『海や山、自然が好きで大学卒業後この世界に入りました。まだまだ日々勉強の身ではありますが、山を育てていく事の重要性を直に感じられるところが林業の魅力です』と。 静岡県天竜での林業経験がある斉藤さんは『先輩2人の技術力を見せていただき、山づくりの奥深さを感じています。山っておもしろいです』と満面の笑みでお話してくれました。
そして水出社長と2人で木林士を起ち上げた井上さんは『山や林業の事を誰に知ってもらいたいかと考えるならば、子供達・親・そして教育関係者ですね。この様な仕事に意味があるのだと感じてくれれば嬉しいです』と。
水出社長は『ヨーロッパでは林業従事者は憧れの職業なんです。国民が森林の大切さを感じているからなのかもしれませんね。木と山のポテンシャルは高いので、様々な可能性はあると思います。夢は広がりますね』
山を守る人達と私達の暮らしの繋がりを考えながら、あなたも山に出かけてみませんか?
2016年10月31日|檜原村
記者プロフィール
渡邊 紀美子
港区から小学六年で稲城市に越す。稲城の中央図書館が好き。現在は多摩市民。多摩の車道・歩道完全分離の道が好き・商店街でのふれあいも好き。そして檜原村も好き。にしがわの自然とやわらかい街の雰囲気が気に入ってる。