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れんが工場のあったまち

にしがわに住む人々にとって、なくてはならないJR中央線。100年以上前、甲武鉄道と呼ばれていた時代からその足元を固め続けていたのが、日野の土を焼いて作った日野煉瓦でした。

煉瓦工場


日野市の東側、現在の日野市日野、むかしは字(あざ)下河原と呼ばれていた場所に1888年(明治21年)から2年間操業していた煉瓦工場があった。100年以上前の短い期間しか存在しない工場だけあり、現地に足を運んでも当時の工場のなごりを思わせるものはなにも残っていない。広い道路と区画された戸建ての住宅が当たり前のように並んでいる。手元の資料を見ると、2年間で50万個の煉瓦を作っていたとあるが、その工場の規模やどのくらいの人々がどのように働いていたのかなどの詳細な資料は残っていない。

煉瓦の痕跡


工場の痕跡や記録は残っていなくても、煉瓦そのものは日野市から立川市にかけて、今も鉄道の土台や橋脚の構造材として多く見受けられる。開業当時は甲武鉄道と呼ばれていた現在のJR中央線が、1889年(明治22年)4月に新宿・立川間を開業、同年8月に八王子まで延伸した。

その際、多くの日野煉瓦が使用されたようである。実物を見たいと思っていたところ、日野市立第一中学校にモニュメントとして展示されている日野煉瓦があるということで見学に向かった。学校の外壁面に少し白濁しているものの赤い煉瓦が壁面に飾ってある。ふだん見かける煉瓦より少し大ぶりで、寸法を測ると幅が220mm、現在の規格の210mmより少し大きめだ、これをもとに日野煉瓦を検証してみようと思い立った。

検証


日野用水上堰、風格を感じる色合いだ。

現在も使われているという日野煉瓦の検証に、日野駅から立川方面に歩いてみることにした。その前に安全祈願のため、日野駅のすぐ隣にある飯綱神社にお参りに行くことに。ここの社(やしろ)に日野煉瓦が使われているという。その基礎部分に使われている煉瓦はぴたりと220mm、日野煉瓦サイズに一致した。

旧甲州街道を越えてすぐの日野用水の上堰(かみぜき)で使われている煉瓦。フェンスで囲われて立ち入り禁止のため近づくことができず大きさの確認はできないが、ここの煉瓦は色目が濃くどこか風格を感じる。これは焼過(やきすぎ)という耐水性を高めたものだそうで用水堰ということでこの種の煉瓦を使用したようだ、この先の下堰(しもぜき)も同じ仕様になっている。さらに先に進み多摩川の堤防に出ると線路の土台部分に煉瓦が使われている。ここの煉瓦は色目からいって耐水性を持たせたものではなさそうだが、寸法はモニュメントと同じ220mmであった。

多摩川の日野市側の土台に使われている日野煉瓦、中央線の上り線になる。

次は立日橋を渡り対岸の立川市側の橋脚へむかう。こちらは5?6本の橋脚に煉瓦が使用されている。すべて上り線なのは、鉄道開業時は単線だったからのようだ。煉瓦に白い劣化防止剤らしきものが塗付されていて、おもむきが削がれた感じで少し残念だ。しかし多摩川の流れに近い橋脚だけは濃い色目で、日野の上堰・下堰のような風格を感じる、これも耐水加工をされているのかもしれない、そして大きさも220mmで日野煉瓦の寸法に一致する。

工場も西へ


甲武鉄道の新宿・立川の間に使用されている煉瓦は、埼玉県に工場があり東京駅などにも煉瓦を提供した日本煉瓦製造のものを使用しているそうで、立川より先は多摩川という地形的制約もあり、日野に煉瓦工場を作ることになったようである。1897年(明治30年)八王子煉瓦が設立され、そこで製造された煉瓦は小仏トンネルなどに使用された。線路の延伸と共に煉瓦工場も西へ西へと移動していった。

過ぎ去るもの


最も多摩川に近い一本の橋脚だけ塗装されておらず、風格を感じる。

日野煉瓦は日野宿の土渕英(つちぶち はなぶさ)が高木吉造、河野清助などの地元有力者と共に煉瓦造りを始めたとある。この会社は鉄道事業と共に歩んだと言えるようで、鉄道と土地に生きる人々との強いつながりを感じる。 線路が多摩川を渡って一年後、土渕の急死により日野煉瓦の工場は廃業し、疾風のように世間から消え去った。煉瓦自身もやがて大量に生産され安価になったコンクリートに、建築・工作物などの主材料としての地位を奪われ、一部の特殊な建物などは除きその役目を終えていく。

日野の煉瓦製造の工場やそれに携わる人々の痕跡が消え、さらには煉瓦そのものも構造材としての使命を終え、世の中から少しずつ姿を消しつつある。そのような中であっても100年以上前に作られた煉瓦が現在もレールの下で我々の足元を固めていることも確かだ。これは、世の中が変わろうとも堅実に足元を固めていればその足跡は残るものであり、それは人間も同じであるという煉瓦からの教えなのかもしれない。

2016年08月27日

記者プロフィール

まつい のぶお
空想好き。読むこと書くこと、そして調べることも好き。

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