• も
一覧に戻る

物語をつなぐ、どんぐり林

玉川上水沿いの、地元住民の日常に溶け込み、大人や子供の遊び場でもある雑木林で、定期的に開催されている「月夜の幻燈会」をご存知ですか?

幻燈会を知る


どんぐり林、2015年秋の昼、撮影

私が時々散歩している玉川上水沿いに、小平中央公園があります。緑がたくさんあり、総合体育館、400mトラックの他、銀杏並木、噴水、ジャブジャブ池もあり、住民の憩いの場となっています。その東側に、人々が、自由に入ることが出来る雑木林があり、年間を通じて、様々なイベントが行われています。私が、月夜の幻燈会のことを知ったのは、玉川上水オープンギャラリーに貼られた、第10回幻燈会『かしわばやしの夜』の告知ポスターでした。インターネットで探してみると、この幻燈会で画を担当されている、知人の名前を見つけたのです。その方は、小林敏也さんというイラストレーター兼デザイナーで、30余年前から、「画本 宮澤賢治」シリーズを世に送り出しています。私は敏也さんの画の世界が好きということもあり、第11回月夜の幻燈会『雪わたり』を見に行きました。 

幻燈会を体験


〈雪わたり〉2014年10月11日開催 撮影:高野丈さん

幻燈会に向かう玉川上水緑道で、ふと見上げた夜空には木々の隙間に月が浮かび、公園につながる「兎橋」では上水を流れる水の音に心が静められ、幻燈会へ導いてくれる演出のような気がしてくるのでした。受付でカンパ金を払い、辺りを見渡すと、雑木林が野外劇場になっていました。開演時間になると、場が静まり、生の笛とトライアングルの音と共に暗闇の中に青い幻燈が現れました。それは、雪山を走る狐の場面で、はっと息を呑むような光景でした。自然に聞こえてくる虫や鳥の鳴く声やどんぐりが落ちる音と、朗読、生演奏が、不思議なハーモニーを奏でていました。上映後に、子供たちが手で狐を作りその影をスクリーンに映して遊んでいました。

私は、その後、3回足を運びましたが、幻燈会を体験する度に、自分の中で何かが、触発される感覚がありました。宮澤賢治の世界観と、この雑木林がぴったり一致する気がするのは何故なのか、等色々な思いが頭をもたげ、この会を主催されているどんぐりの会の代表の方に、会いに行こうと思いました。

幻燈会開催への道のり


自家発電の様子 2015年10月撮影

鷹の台の駅近くの喫茶店で、どんぐりの会の主催者である、尾川直子さんと、メンバーであり、朗読を担当されている、鍵本景子さんに「月夜の幻燈会」について、お話を伺いました。

尾川さんによると、どんぐりの会は2008年に発足。メンバーは、雑木林で以前から行われていた「NPO法人こだいら自由遊びの会」のプレーパークの活動等を通して集まった有志だとのこと。画の小林敏也さんが、以前に東中野などで開催した幻燈会を見ていたメンバーから、小平でもやったらどうだろう、という話が出て、実践に向けて動き始めることになります。

最初に上がった難題は、野外で、電気をどうひくか、ということでした。メンバーの一人が国立のお祭りで自転車発電機と出会いましたが、自転車を漕いでいる時だけしか発電出来ない、スライド映写機に直接つなぐと危険、という問題がありました。その後、国分寺恋ヶ窪にある電気屋さんがその自転車発電機を改造し充電できるようにし、電力を安定させるインバーターにつないで、一定の電力がスライド映写機に送られるようになりました。その他、メンバーが、知恵とアイディアを出し合って、手作りの幻燈会が実現することになったのです。ちなみに、会場の「どんぐり林」は、ここで遊ぶ子供たちがこの雑木林を「どんぐり林」と呼んでいたのがきっかけで生まれた造語だそう。

どんぐり林で、つながる


〈どんぐりと山猫〉 2015年5月16日開催 撮影:高野丈さん

記念すべき第1回は、2009年『オッベルと象』で、その後、年2回のペースで開催され、2015年秋の『セロ弾きのゴーシュ』で、13回目を迎えました。

回ごとに工夫をしているそうで、小林敏也さんが、幻燈会当日、「今から狐のお面を作ろう、それを子供が被って、どこかのシーンに登場してもらおう」と提案して、本番前ギリギリで、演出が変わることもあるそう。小林敏也さんのスライド画も、もともと在ったものをそのまま使うのではなく、回ごとにレイアウトを変えたり、新しい絵を加えたりしているそう。尾川さんは、幻燈会を、どんぐり林で、出来る限り続けていきたいと、熱く話してくれました。

しかし、悲しいことに、どんぐり林の東半分が、都市計画道路となっており、東京都が、2015年2月に柵を設置しました。尾川さん曰く、道路が出来たら、車の騒音の中では、幻燈会は成立しないので、開催出来なくなる、又、今の時点で別の場所での開催は、まだ考えたくない、とのことでした。

私は、幻燈会は、主催者や、観客が、世代を超えてどんぐり林で自身の想いやイメージが膨らませ、つながる、特別な時間だと思っています。私は先日、昼間にどんぐり林付近を散歩していて、ふと空を見上げた時、ある発見がありました。

「あの幻燈会の画の中に登場する、狐、猫、一郎、ゴーシュたちは、上演後、スクリーンという非日常を飛び出して、この、どんぐり林の日常に住みついているのではないか」と。

どんぐり林で、たくさんの生き物たちが住民と共に呼吸をしながら、ひっそりと佇んでいる気がしました。

こんなふうに、ひとに気づきを喚起させてくれる、「どんぐり林の、月夜の幻燈会」を体験してみてはいかがでしょうか?

2016年02月27日|小平市

記者プロフィール

石井 おりえ
小平市在住。音楽、自己流路上観察、日常から物語を空想、創作する事が好き。元ダンサーという経験が尾を引いてか、何かと大げさな身振り、言葉ぶりで、日々を送り気味傾向あり。時々想いが空高くかなたに飛行しがちですが、文章を書くことでバランスがとれていると感じる今日この頃。

一覧に戻る