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貫井(ぬくい)神社の秋祭り

にしがわを歩くと、いつも新しい発見や出会いがあるような気がします。新しいものと一緒に武蔵野の厚みのある歴史も、人びとによって大切に守られ続けているのです。

ある日。まちなかに、大きな山車(だし)が...


9月14日。夏が引き返してきたような暑さの中、小金井市内を歩いていた私は新小金井街道のサーティーワンへアイスクリームを求めて寄り道。すると、通りをはさんで向かいのファミリーマートの駐車場に大きな「山車」が停まっており、風神雷神が日差しを受けて力強く光っているのが見えました。そういえば小金井に住んでいる知り合いが、市内に「貫井神社」という立派な神社があって、その例大祭が凄いんだ、と言っていたのを思い出しました。きっと、今日は貫井神社の年に一度の例大祭なんだ。この先に、貫井神社があるのでしょうか。立派な山車に目を奪われながらアイスを食べていると、山車は人びとの掛け声とともにサーティーワンのすぐ傍らを通り抜けていったので、後を追いかけました。

貫井神社の秋祭り


新小金井通り沿いの滄浪泉園(そうろうせんえん)という泉から西へ600mほど進むと、貫井神社へたどり着きます。祭囃子の生演奏が流れる広場では、風船屋や金魚すくいに近所の子どもたちが集まり、大人たちはテントの下でささやかな宴席を開いています。さきほどの山車はまだ戻ってきていないようです。あたりを散策していると、ここへは初めて来たというのに懐かしい記憶もよみがえります。お祭りにわくわくする気持ちは子どものころから変わらないことが不思議です。

貫井神社の前の広場にて。どこか懐かしい風景。

お祭りといえば、その起源は「神を祀ること」でしたが、じょじょに人びとが集まる賑やかな行事の意味へと変わってゆきました。例えば大相撲も本来は奉納のお祭りでしたが、時の流れとともに原義は忘れられ、現在のような形式に姿を変えていったそうです。

と、そんなことが書いてある立て看板をなんとなく眺めながら、立派な山車に乗せて大切に遺された記憶の扉を今まさにたたこうとしていたのでした。

山車との再会


一つ一つ和歌の詠まれた行灯。山車のあるところまで続いていました。

日が暮れはじめるころ。その場を1時間ほど離れた隙に、広場では撤収作業が始まっていました。山車はどこにも見当たりません。風船売りのお兄さんが余りの風船をくれて、「ここはもう終わってしまったよ」と教えてくれました。終わってしまったのなら仕方ない......。すごすごと引き返し、すっかり暗くなった野川に架かる橋を渡ります。川むこうの、日の暮れかかったうす暗い住宅街にぽつぽつと行灯(あんどん)の灯りが浮かび上がります。気になってよく見ると、切り絵や水彩絵の具で彩られた行灯にはそれぞれ和歌が詠まれており、どれも「貫井囃子(ぬくいばやし)保存会」と記されています。ふわりとした灯りに導かれるように辿っていくと、その先にはあの山車の姿が!

地元の集いに迷い込んで...


昼間に出会った風神雷神と、偶然の再会です。立派な木彫りの意匠に思わず目を凝らして眺めていると、地元の方に声をかけられ、すぐそばの宴席へと招かれました。そこは年に一度の祭りに集まる親戚や友達たちで、アットホームな地元モード。少し躊躇しましたが、「7時からは貫井囃子がはじまりますよ」と笑顔で席へ通されます。周囲には、お囃子を観るためぞくぞくと人びとが集まりだしていました。ほんの5分前までは貫井囃子の存在すら知らず、半日前は貫井神社のお祭りに来る予定すらなかったのに......。偶然のような、迷い込んだような不思議な気分を味わいながら、そのままお囃子を観ることに。

「上鳥屋若連(かみとやわかれん) 上青もどき会」


山車の上で舞われる獅子舞。
愉快な動きのひょっとこ達。
演目の終わりを彩る、天狐による蜘蛛の糸!

始まりは、相模原より招かれた「上鳥屋若連 上青もどき会」による演目から。あたりは静まり、夏の終わりと秋の入り混じる空気に、澄んだ篠笛の音が一閃。太鼓の拍子と混ざり合いながら次第に激しくなったところへ、山車の上に一頭の獅子が歯を打ち鳴らしながら舞い現れます。頭を大きく振り上げたと思うと、こちらに迫りくるように身を乗り出すたびに、不思議とその動きに釘付けになっていきました。

獅子が下がると入れ替わるように3人のひょっとこが現れて、軽妙愉快な舞を披露。三者三様のユニークな表情と、こちらに手のひらを向けながら舞う動きに、やがて親しみがわいてきます。最後に天狐(てんこ)が舞い現れると、一変して鋭い空気に切り替わります。神の使いといわれる白い狐の獣のような舞には、畏怖のような凄みを感じるものがありました。

「貫井囃子保存会」


次いで、貫井囃子保存会による演目は、山車から降りた観客席でも行われました。獅子は次々に観客の頭を噛んでまわり、子どもたちも自ら獅子のまわりに集まって頭を差し出しています。気さくなひょっとこ達は人びとに握手を求め、カメラを向けると嬉しそうにポーズを決めます。客席から飛び出した子どもが、山車の前のステージで観客に向けて自分の踊りを披露する場面も。最後は山車から蜘蛛の糸を模したテープが客席に向かって投げ広げられ、すっかり温まった場から大きな拍手が沸き起こりました。

偶然が起こるまち


こうして偶然にも小金井の歴史ある伝統芸能の世界へ迷い込み、半日ですっかり入り込んでしまったのでした。にしがわに住んで一年、まちなかには不思議な出会いや発見が満ちているような気がしています。それぞれの土地や歴史が縦軸なら、人びとの心が横軸となって繋がり広がっているような、生き生きとしている感じがするのです。

参考


「お囃子」は江戸時代が発祥と言われる伝統芸能です。囃子を演奏し舞う人々によって、それぞれの土地の神社へ奉納され、代々受け継がれていきました。余所から師事する人びとへも教え広められたことから、お囃子には流派があり、貫井囃子は「目黒流」というそうです。一度消えかかったその文化を、戦後復活させたのが「貫井囃子保存会」の発祥であり、現在は各地の囃子保存会と交流を持ちながら技術を向上させ、地元のみならず様々な土地で演目を披露しています。

  • 貫井囃子保存会
  • 2015年02月06日|小金井市

    記者プロフィール

    開作 優
    関西出身、国分寺に住んで2年目。にしがわの、野菜の美味しさや、土地の奥深さに興味津々!というか、面白い方が多すぎて気づくと引きこまれていってしまってます(笑)

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