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おかえりとただいまの、心地よい距離。

はじめまして。私は日野市にあるシェアハウス「りえんと多摩平」で暮らしている30代の会社員です。元団地をリノベーションした建物には総勢約80名の個性豊かな面々が、きょうも暮らしを楽しんでいます。

おかえりの衝撃


わたしは2年前の夏、ひょんなことがきっかけでりえんとに住むことを決めました。ですが、わりと人見知りな所があるので、引っ越しを決めてからも一体どんなところなんだろうー?と期待と不安がおおいに入り交じっておりました。けれど、実際に生活を始めてみたら、実に人の体温を感じるあたたかな空間だったのです。

りえんとに引っ越して、初めて住人共有の食堂スペース(通称ラウンジ)に顔をだしたときのこと。「おかえりー」と初対面の人に声をかけてもらったことは今も忘れません。すごく、不思議だったのです。まだ名前も知らない状態で、おかえりと言われたのは初めてで、私は「た、ただい......こんばんわ」と、ただただ気恥ずかしくて、ただいまーと素直に言葉にできませんでした。

いつものラウンジ。なんとなくお茶タイムがはじまったり。
ラウンジでは、仕事や学校帰りの人が思い思いに過ごしていました。晩ご飯をわいわい食べている人たちもいれば、宿題を片付けている人、テレビドラマに夢中の人、手芸をする人、バイオリンの練習をする人......。なんだろう?この感じ...?絶妙に程よい距離感で過ごす住人を目の当りにして、"ここにはこれまでに味わったことのない人間関係のカタチがあるかも"と、まるで初めて外国に行った時のように、脳みその細胞フル動員でその場の雰囲気を感じていました。

そして、住み始めて少し時が経つと、だんだん「ただいま」が言えるようになってきました。

団地をまるまるリノベーション


「りえんと多摩平」は2011年に、公団住宅2棟をリノベーションして生まれました。前身は昭和33年竣工の「多摩平団地」。テーブルと椅子の洋式な団地生活は、当時憧れの的だったそう。この場所には、昭和の家族の素敵な思い出がたくさん詰まっています。しかし、時の経過にはあらがえず、老朽化のため現在はほとんど建て替えられました。

りえんと多摩平の外観。リノベーションは、不動産再生のオーソリティ、株式会社ブルースタジオが監修。

そのうち5棟のみを残し、再生するという実験的なプロジェクトのうちの2棟が、「りえんと多摩平」です。1棟(244号棟)は中央大学の寮として利用され、もう1棟(247号棟)には首都大学東京の学生や交換留学生、そして働く大人まで、さまざまな人が暮らしています。私が住んでいるのは後者です。

247号棟には、家具付きの個室が全部で78室あります。個室の広さは大体5〜6畳くらい。かつてのひと家族分の空間、3Kの間取りをそのまま活かして、3つの部屋に独立させ、それを1つのユニットとして3人でシェアしています。

以前、管理会社の株式会社リビタの方が、「管理しているシェア物件の中でも、『りえんと多摩平』はひと際のんびりとあったかいムードがあるね」と話していました。その時、その理由が何故なのかわかりませんでしたが、もしかしたら自然が豊かな日野市に位置しているのも、住人たちがやわらかい空気を醸し出す一因なのかもしれないなぁ、と最近思います。建物は、ふさふさの芝生に囲まれているし、隣の広い空き地には大きなけやきの木が何本もそびえ立っています(サバンナっぽい)。たしかに帰って来た時、なんだかほっとします。

一期一会の暮らしをたのしむ


秋の夜空の下、映画をたのしむ。「open air cinema」

りえんとでは、時おりイベントも行われます。このあいだ、住人の男の子が企画したのは「Open Air Cinema」という野外映画上映会。ラウンジでみんなの手料理を食べ、敷地の中にある木にスクリーン(手づくり)を設置して、レッドカーペット(太っ腹な住人が購入)を敷いて映画祭っぽさを演出して、秋の夜長をわいわい楽しみました。

また、年に数回、ここを旅立つ人をいってらっしゃいと見送るごはん会もあります。この春にはサッカー好きな女の子が、北陸のサッカーチームの広報として旅立ったり、料理をつくっては、いつも周りを和ませていた男の子は、岐阜で森林について学ぶために旅立ちました。

そう書いているうちに、ふと、そういえば今ここに暮らしているみんなも、それぞれにこれからを模索しながら前に進んでいる人が多いかも、という気がしてきました。そんな時間を過ごすにも、ここはぴったりの住まいかもしれません。多世代、多人種の人と"ふだん"を共にする日常の中には、人生のヒントがたくさん散りばめられているから。ふとした会話から"あっ"と思ったり、料理の作り方が目から鱗だったり、物事の考え方もほおと関心したりすることも、結構あります。

ただいまの効能


りえんとに住み始めて、2年が経ちました。面白いのは、住んでいるみんなとの関係性。時にご近所さんのような、時に家族のような、いやはや、やっぱりともだちのような。未だに、なんて名づけていいかわからない(笑)。"ただいまー"といえば"おかえり"と返ってくる。住人のみんなの間には、なんともやさしい距離感の、あたたかな空気が流れています。

管理人の池田みえこさんは、いつも楽しくてバタバタでちゃきちゃきで頼もしい、みんなのおかあちゃん。

なにげなく今日のできごとを話したり、なにげなく変わったフルーツを食べる勇気が湧いたり、元気な顔もしごとで疲れた顔もなにげなく知ってる人がいる。本当の家族じゃないけど、なんてことない日常生活に、なにげなーく、いろんな人が登場してくる、人生を幾重にもたのしませてもらっているような、そんな不思議な面白さがあります。

10年後とか、それぞれ旅立ってまたみんなで集まったりしたら、きっとその時は同郷の仲間ような気持ちで今の日々を思い出して、たのしく語り合っているような気がします。その時は、それぞれのその後のドラマも聞きたい。そして、そんな未来が、暮らしている今からワクワクとたのしみなのです。

2015年01月21日|日野市

記者プロフィール

三森 奈緒子
山梨県出身。多摩の地域出版社、けやき出版勤務。銭湯・定食屋・まちの本屋・たばこ屋が好き。のびのびあたたかなにしがわの交流が、となりの山梨までひろがってつながるといいなぁと思う今日このごろ。

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